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美容医療におけるヒアルロン酸注入の基本的手技

篠原秀勝

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篠原秀勝(しのはら ひでまさ)

ヒアルロン酸の基本的な注入方法

ヒアルロン酸注入は患者さまの負担が少なく、施術直後から効果を実感できる当院でも人気の施術です。一方ヒアルロン酸注入を成功させるためには、医師が部位や目的によって適切な注入方法を見極めることが大切です。

以下では、ヒアルロン酸注入で使用するおもな注入方法とその役割について解説しています。

①リニアスレッディング法(liner-threading)

リニアスレッディング法とは、線状注入のことです。皮膚に対し針の角度を斜めに挿刺(そうし)し、ゆっくり針を後方へ引きながら、ヒアルロン酸を注入します。1本の線状になったヒアルロン酸が皮膚の溝・凹みを持ち上げ、シワ改善や隆鼻術におこなう注入法です。

リニアスレッディング法は針を刺す回数が少なく、痛みや腫れ、内出血を抑えることができます。一方、針を引きながら(逆行)ヒアルロン酸を注入するため、皮膚の浅い部位ではミミズ腫れのような凹凸が生じるケースも少なくありません。リニアスレッディング法は高い技術が必要とされる注入法といえるでしょう。

応用:クロスハッチング法(cross-hatching)

クロスハッチング法とは、ヒアルロン酸を格子状に注入する技法です。目的部位へ挿刺し、ヒアルロン酸を線状に注入します。注入後、皮膚から針を抜き、最初の挿刺部位から数ミリ横に移動、再び針を挿刺し、これを数回繰り返します。

縦線状(もしくは横線状)の注入後、わずかに異なる皮膚の深さに挿刺し、線状のヒアルロン酸が格子状になるよう注入をおこないます。皮下で面となったヒアルロン酸により、広範囲に皮膚を持ち上げることが可能です。

②ボーラス法(bolus)

ボーラス法とは、玉状にヒアルロン酸を注入する技法です。ボーラスとは「玉」を意味するラテン語であり、ヒアルロン酸注入においては部分的な凹みの改善に使用します。

ボーラス法の応用として、マイクロボーラスと呼ばれる注入法があります。0.1ml以下という非常に少量のヒアルロン酸を、針を移動させながら連続的に注入する高度な技法です。マイクロボーラスは注入時の痛みを軽減すると同時に、合併症リスクを最小限に抑えることができます。

③ファニング(扇型)法(fanning)

ファニング法とは目的部位の周辺に針を挿刺し、針を抜かずに皮膚内部で方向を変えながら扇状にヒアルロン酸を注入する技法です。針を刺す部位は一箇所のため、皮膚への負担を最小限に抑えながら広い範囲へ注入することができます。

ファニング法は額形成など、広い面を底上げする施術に適したヒアルロン酸注入法といえます。何度も針を刺す必要がないため、内出血リスクと患者負担の少ない施術が可能です。

ヒアルロン酸注入で使用する針はおもに2種類

ヒアルロン酸注入時に使用する注射針は「ニードル(鋭針)」と「カニューレ(鈍針)」の2種類です。目的部位やヒアルロン酸の粘弾性により使い分けることで、安全性の高い施術をおこなうことができます。

細かい施術・ポイント注入が可能な「ニードル(鋭針)」

美容医療においてニードルとは、おもに先端の尖った鋭針のことです。注射針の太さは「ゲージ(G)」という単位で表し、ゲージの値が大きいほど細い針となります。

ニードル(鋭針)の特徴は真皮層から骨膜上まで、目的の皮膚層にヒアルロン酸の配置が可能なことです。またピンポイントの注入や、皮膚浅層のヒアルロン酸注入もニードルが多く使用されます。

血管や組織を傷つけにくい「カニューレ(鈍針)」

カニューレとは鈍針とも呼ばれ、針は柔軟で先端が丸く、穴が横にあることが特徴です。血管や組織を傷つけにくいため痛みが少なく、内出血リスクを抑えることができます。

一方、カニューレ挿刺前は、鋭針でカニューレを通す穴をあける必要があります。カニューレによるヒアルロン酸注入であったとしても、軽微な痛みと微細な内出血リスクが生じることを理解しましょう。

ニードル カニューレ
メリット ・目的の皮膚層や部位にヒアルロン酸を正確に注入することが可能 ・針先が丸く針自体も柔軟・痛みや血管損傷と内出血リスクが少ない・針穴が少ない
デメリット ・挿刺時の痛み・血管損傷リスク・内出血 ・挿刺時には鋭針を使用・目的層への正確な注入がむずかしい・皮膚内で針が移動する際の軽微な違和感・高額
ヒアルロン酸注入で使用される針のサイズ おもに27〜34G おもに25〜30G
刺入の深度 真皮浅層〜骨膜上 真皮中層〜骨膜上
針痕の数 注入範囲により多くなる 1部位に対して1箇所
適した部位 ・目元・口唇等の狭い部位・皮膚の薄い部位 額や頬等の広い部位
適した注入技法 ・リニアスレッディング法・ボーラス法 ・ファニング法・クロスハッチング法

ヒアルロン酸を注入する皮膚層

ヒアルロン酸注入をおこなう皮膚層は、真皮層から骨膜上までです。真皮層においては治療目的に合わせ、浅層中層深層に分けて注入をおこないます。

真皮浅層

真皮浅層へのヒアルロン酸注入は、小ジワや肌質改善を目的とした製剤を使用します。真皮浅層へ使用するヒアルロン酸は粘弾性が低いため、血管閉塞のリスクが非常に低いことが特徴です。

一方、皮膚が薄い部位への注入は、施術直後に製剤による膨疹(皮膚の盛り上がり)が生じるケースも少なくありません。通常、膨疹は数時間〜数日で消失することがほとんどですが、凹凸が目立つ、膨疹が消えない場合は担当医に相談しましょう。

真皮中層・深層

真皮中層・深層へのヒアルロン酸注入は、溝となったシワの改善を目的とします。ヒアルロン酸の大きな特長は、注入直後からシワ改善効果が実感できることです。ヒアルロン酸製剤は多種多様にあるため、自然でなめらかな仕上がりにするには、良質で適切な粘弾性のヒアルロン酸を選ぶことが重要です。

真皮層の適切な位置に注入されたヒアルロン酸は、時間とともに体内へ吸収されます。一方、目の下など皮膚の浅い層に多量のヒアルロン酸を注入した場合、青白く透けて見える”チンダル現象”が生じるため注意が必要です。

脂肪層(皮下組織)

脂肪層(皮下組織)の大部分は脂肪細胞で構成され、真皮層を支える組織です。しかし、加齢にともない脂肪のボリュームが失われ、脂肪細胞を安定させるリガメント(支持靭帯)が衰えると、脂肪は重力とともに下垂します。

ヒアルロン酸注入は加齢によって失われたボリュームを補充します。また、衰えたリガメントを補強し、下垂した脂肪を固定することで元の位置に近づけ、リフト効果をもたらします。

脂肪層には動脈など重要な血管が存在しますので、解剖学を熟知し、注入技術に精通した医師による施術を受けることが大切です。

骨膜上

近年”ヒアルリフト”とも呼ばれ、骨膜上へのヒアルロン酸注入によるリフトアップ施術が多くおこなわれています。加齢とともに萎縮する顔面骨を、適切な粘弾性のヒアルロン酸で補うことで若々しい顔印象へ仕上げる注入施術です。

皮膚の土台ともいえる顔面骨の形成を、ダウンタイムなく当日中に仕上げることができるのはヒアルロン酸注入のみといえます。一方、安全性が高く、自然で美しいリフトアップのためには症状や原因によって注入技法や注入深度の組み合わせを見極める、高度で繊細な注入技術が求められます。

※注入直後の腫れや浮腫み、内出血のリスクがあります

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