【技術編】ヒアルロン酸治療における「技術」とは何か
ヒアルロン酸治療では、「どの製剤を使うか」が重要であることは間違いありません。
しかし同時に、どれほど優れた製剤であっても、適切なデザインと知識、そして技術が伴わなければ、安全性も仕上がりも担保されないというのが紛れもない現実です。
ここで言う「技術」とは、単に針を刺す手先の器用さを指すものではありません。

1.ヒアルロン酸治療における技術の要素
ヒアルロン酸注入の技術は、大きく以下の要素から成り立っています。
● 顔面解剖の正確な理解
● 注入層の選択
● 注入量・注入圧力のコントロール
● 針・カニューレの使い分け
● 製剤特性を踏まえた注入方法
● 合併症を想定したリスク管理
これらはすべて独立した要素ではなく、相互に密接に関係しながら、治療の結果を左右します。
2.解剖学的理解がすべての前提になる
ヒアルロン酸治療において最も重要なのは、顔面の解剖構造を立体的に理解しているかどうかです。
皮膚、皮下脂肪、筋肉、リガメント、骨膜、血管、神経。
これらの位置関係を正確に把握せずに行う注入は、合併症のリスクを高めるだけでなく、不自然な仕上がりにつながる原因にもなります。
特に重要なのが、血管走行の理解です。
血管走行とは、血液が流れる経路やルートのことを指します。
一般道や高速道路のように、「どこを通っているか」「どこに位置しているか」というイメージを持つと分かりやすいかもしれません。
ただし、人体の血管には、個人差が非常に大きいという特徴があります。
教科書的には一本の血管として示されている部位でも、
実際には
● 二本に分かれている
● 途中で枝分かれしている
● 走行の位置が左右で異なる
といった個人差が存在します。
そのため、安全なヒアルロン酸治療を行うためには、「教科書通り」の解剖を前提にするのではなく、個々の患者さんごとの解剖学的違いを常に想定する姿勢が不可欠です。
3.「どこに入れるか」だけでなく「どの層に入れるか」
ヒアルロン酸治療では、同じ部位であっても、注入する「層」によって結果は大きく変わります。
代表的な注入層には、以下のようなものがあります。
● 骨膜上
● 深部脂肪層
● 浅層脂肪層
● 皮下直下
● 皮内
それぞれの層には役割があり、適した製剤・適した注入量・適した注入方法が存在します。
層の選択を誤ると、
● しこり
● 凹凸
● 不自然な動き(表情によって膨らみが目立つ)
といったトラブルにつながることがあります。
注入層を理解するための「布団の例え」
注入層の違いは、私はよく 布団の重なり に例えて説明しています。
● シーツ:皮膚
● 掛布団:浅層脂肪
● 毛布:深部脂肪
● 敷布団:筋肉
とイメージしてみてください。
もし、シーツのすぐ下(皮下直下)に枕を入れたら、表面から枕の形がはっきり分かり、「ポコッ」と膨らんで見えるはずです。
では、敷布団の下(より深い層)に枕を入れたらどうでしょうか。なんとなく膨らんでいるように感じるか、場合によっては、ほとんど変化が分からないかもしれません。
また、掛布団と毛布の間(中間層)に枕を入れると、ぼんやりとした自然な膨らみとして認識されるでしょう。
このように、浅い層に入れれば変化は出やすく、深い層に入れれば変化は穏やかになるという特徴があります。
つまり、どの層に注入するかによって、仕上がりは大きく変わるのです。
さらに、解剖学的な安全性の観点から、注入できる層があらかじめ限定される部位も存在します。
そのため、ヒアルロン酸治療では「どこに入れるか」だけでなく、「どの層に、どの製剤を、どの程度入れるか」まで含めて設計することが不可欠です。
4.注入量と「入れすぎない」判断
ヒアルロン酸治療において、注入量の判断そのものが、技術の一部です。
多く入れれば効果が高まる、というものではありません。
むしろ、入れすぎることで、
● 不自然な印象
● 美しさを欠いた仕上がり
を生んでしまうこともあります。
また、量を増やしても見た目にほとんど変化が出ない部位も存在します。
そのような場所に注入を重ねることは、効果が乏しいだけでなく、患者さん本位とは言えない不要な注入だと考えています。
当院では、「必要最小限で、最大限の変化を引き出す」という考え方を重視しています。
近年、マニュアルに沿って一度に大量のヒアルロン酸を使用する注入法も増えていると聞きます。
マニュアル自体を否定するものではありませんが、同じ骨格、同じ顔立ちの方は存在しません。
当然、注入の設計や量がすべて同じになるはずもありません。
また、安全性や痛みの面からも、当院では 一度に無理をしない治療 を大切にしています。
必要最小限の量で治療を行い、それでも物足りなさが残る場合には、後から追加する というスタンスを基本としています。
ヒアルロン酸は「溶解できる」治療ではありますが、溶解によって分解されるのは、注入した人工のヒアルロン酸だけではありません。
体内にもともと存在する天然のヒアルロン酸も同時に分解されるため、安易に「一度リセットすればよい」と考えられるものではありません。
その意味でも、最初から入れすぎない判断が、安全で美しいヒアルロン酸治療には不可欠だと考えています。
5.鋭針とカニューレ針の使い分け、そして圧力
ヒアルロン酸注入では、鋭針(ニードル) と カニューレ針 を、部位や目的に応じて使い分けます。
代表的には、
● 精密な位置に少量ずつ注入する場合
● 血管リスクを考慮する必要がある部位
● 広範囲に均一に注入する場合
など、それぞれに適した器具があります。
針の選択は、痛み・内出血・腫れやすさといった術後反応にも影響します。
一般的には、安全性の観点から、25ゲージ前後の太さのカニューレが推奨されることが多く、注入部位に応じて太さの異なるカニューレを使い分けます。
ただし、「カニューレを使えば安全」というわけでは決してありません。
注入する部位や層によっては、ニードルの方が安全性が高いと判断されるケースもあります。
重要なのは、器具そのものではなく、部位・解剖・注入層に応じた適切な選択です。
また、どの針を使用する場合であっても、注入時の圧力やスピードは非常に重要です。
合併症の原因のひとつとして、注入圧(注入スピード)が重要なトリガーになり得ると考えられています。
そのため、特にハイリスク部位への注入では、慎重に、ゆっくりとした注入操作が不可欠です。
6.Myomudulation:
ヒアルロン酸でボツリヌストキシンのように筋肉の動きを調整するというテクニック
― ヒアルロン酸で筋肉の動きを調整するというテクニック ―
ヒアルロン酸治療は、すでに刻まれたシワを充填することで改善を図る治療として広く知られています。
一方で、表情筋の過剰な動きによって生じる〈動的なしわ〉に対しては、ボツリヌストキシン治療が良い適応となります。
この二つの治療は目的が異なり、適切に区別したうえで、同時に施術されることも少なくありません。
近年、ヒアルロン酸注入の技術が進化する中で、ヒアルロン酸を用いて筋肉の動きを間接的に調整する
「Myomodulation(マイオモジュレーション)」という考え方が注目されています。
これは、ヒアルロン酸そのものが筋肉を麻痺させるのではなく、筋肉の動きに影響を与える位置や層に注入することで、結果として表情の動きを穏やかにするというテクニックです。
Myomodulationは、
● ボツリヌストキシンの適応がない部位
● ボツリヌストキシンを使用できない患者さん
● 表情を完全に止めたくないケース
などにおいて、治療の選択肢のひとつとして応用されます。
ただし、これはボツリヌストキシン治療の代替ではなく、適応・目的・作用機序が異なる、まったく別の技術です。
6.技術は「結果」だけでなく「合併症対応」まで含まれる
技術とは、合併症を起こさないことだけを指すものではありません。
万が一、
● 血行障害
● アレルギー反応
● 感染
といった事態が生じた場合に、早期に異常を察知し、適切に対応できるかどうかも、技術の一部だと考えています。
これは、日常的にヒアルロン酸治療を行い、製剤の特性や、注入後の臨床経過を熟知しているかどうかに大きく依存します。
さらに言えば、実際の症例をどれだけ見てきたかという「経験」も重要です。
注入後に見られる腫れが、一時的な反応なのか、それとも合併症の兆候なのか。
その判断には、知識だけでなく、実際に多くの経過を見てきたかどうかが非常に大きな意味を持ちます。
◆技術編のまとめ
ヒアルロン酸治療の結果と安全性は、
製剤 × 設計 × 技術
この三つのバランスによって決まります。
どれか一つが優れていても、他が欠けていれば、満足のいく結果は得られません。
当院では、製剤の特性を正しく理解したうえで、解剖・注入層・注入量・リスク管理までを含めた、総合的な「技術」としてのヒアルロン酸治療を行っています。
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